プロ用スピーカ-ケーブルの使い方

オーディオが趣味という方であれば、ベルデン(BELDEN)の名を耳にしたことがあるのではないかと思います。

ベルデン社はアメリカでも古参の、プロ用ケーブルの専門メーカーです。

その中でも知名度が高いのが、8460という型番のスピーカーケーブルではないかと思います。このケーブルは、レコーディングスタジオなどのプロの現場で使われるものです。プロ用と聞くと、値段が高くて私たちにはなかなか手に入り難い、というイメージを持っている方もおられるかもしれませんが、このケーブルは単価が非常に安く入手し易いこともあり、一般家庭で使っている方も多くいます。それがために、安易に取り扱われるケースが多いケーブルでもあります。Amazonなどでも販売されており多くのレビューも見かけます。ところが、どのレビューを拝見しても、プロ用スピーカーケーブルに対する認識が甘く、そもそもオーディオの基本的なことをわかっているのか?と言いたくなるようなコメントも多く、とても正しい使い方をしているとは思えないものばかりです。

プロ用スピーカーケーブルというのは、単にアンプとスピーカーに繋げただけではまともな音は出ません。その素晴らしさを体感するには正しい使い方があります。私たち素人は、正しい使い方を解説したものに触れる機会が思いの外少ない、と感じました。

プロ用スピーカーケーブルは何を目的として製造されているか?

オーディオの世界には、「音が良くなる」をキャッチフレーズにした非常識とも思える高い値段のスピーカーケーブルが数多く存在します。これはケーブル本来の役割を無視して売らんかなだけで製造された結果です。

プロ用スピーカーケーブルというのは、再生された音楽信号を正確にスピーカーに送り込む、それを唯一、最大の目的として作られています。勿論他の用途のケーブルも同様です。レコーディングの現場では、録音された音源を検証する作業(モニター)があります。音源そのものの音を聞くためには、フラットな周波数特性の機材が必要です。モニター機材には変な個性や色付けがあっては困るわけです。これは昔も今も変わりません。ここが民生用機材のコンセプトとの決定的な違いです。

ベルデンの8460は音が良いとか悪いとか、好きだの嫌いだのという類のレビューが多くありますが、このケーブルはそのような次元の低い代物ではないのです。私たち素人如きの音の好みなどは取るに足らないもので、音源を如何に忠実に再現するかというプロの厳しい要求を満たすために作られたスピーカーケーブルなのです。コストパフォーマンスの良さのみで注目されている節がありますが、非常に遺憾です。

このスピーカーケーブルの構造は、すずメッキした複数の細い銅線にビニールの絶縁体という単純なものです。しかも複数の細い銅線は撚ってあります。かなり手間のかかることをしています。また、プラス・マイナス2本のケーブルも適度なピッチで撚ってあります。これはベルデン社100年以上の歴史の中で、フラットな音を出すため、ノイズを拾わないために、試行錯誤の末に考え出したものと思われます。一見単純なこのケーブルに込められている技術とノウハウは、半端なものではありません。

プロ用のスピーカーケーブルは使う長さに対する適切な太さ(型番)というものがあります。私がプロ用のスピーカーケーブルを使うに於いて一番始めに覚えた事柄です。

ベルデンのスピーカーケーブルだと下記のようになります。

2mまでの長さで使うなら8460(太さ18AWG)

3~4mの長さで使うなら少し太目の8470(太さ16AWG)

5~6mの長さで使うならより太目の8473(太さ14AWG)

9~12mの長さで使うなら更に太目の8477(太さ12AWG)

といった具合で、どの型番も線材や構造は全く同じです。違うのは芯線の太さのみです。

プロ用スピ-カーケーブルの商品説明では、必ず太さ~~AWGと表記されています。私の記憶では、オーディオメーカー製のスピーカーケーブルには太さの表記はなかったように思います。オーディオメーカーは太ければそれだけ音が良くなると吹聴し続けてきましたが、これはスピーカーケーブルの役割をわかっていないという証拠です。オーディオメーカーの理論武装というのは所詮その程度のものです。彼らの製品がプロ用ケーブルメーカーの足元にも及ばないのは当然と言えます。私もそれは痛感するところです。プロの領域というのは緻密なものだということです。

使う長さに対して型番の選択を誤ると、酷い音になってしまう可能性があるので、長さに合った型番を使う必要があります。それが面倒臭いと感じる方、生に近い音でなくても十分満足だという方、束ね難いとかデザインが云々といった見てくればかりを気にする方はこのケーブルを使うべきではありません。

小型スピーカーなら8460で十分だというレビューを見かけたことがあります。
多くの人が閲覧するインターネット上で、よくわかりもしないのに適当なことを言う方がおられるので非常に困ります。小型スピーカーは細いケーブル、大型スピーカーなら太いケーブルを使えばいいということでしょうか?およそナンセンス!手の平サイズであろうと人の背丈以上あろうと、スピーカー・システムの見かけの大きさなど全く関係ありません。ケーブルやスピーカー・ユニットの電気的特性によってケーブルの太さが決まるのです。理論的な詳細については、私は素人ですのでとんとわかりませんが、見かけの大きさとは関係がないことくらいは想像が付きます。いくら趣味とは言え、基本的なことを間違って解釈して覚えていると、良い音を得るどころかとんでもないことになりかねません。

セッティングが上手く合いますと、素晴らしい音になります。
セッティングというのは焦点を合わせることです。長さを微調整することを言うそうです。例えば8473であれば、ピッタリ5mあるいは6mのものを使えばそれで良いというわけではないそうです。6mのものを使って違和感のない音がすれば問題はありませんが、スッキリしないことがあります。その場合は、ケーブルを1cmとか0.5cmの単位で少しずつ切ります。その都度音を聞きながら短くしていきます。すると突然ビシッとフォーカスの合った音に出会います。それが適切な長さということになります。非常に手間のかかる作業なので、私も厳密には焦点を合わせていませんが、それでもなかなかの音を得ることができました。良い音というのは簡単には得ることはできないようです。

スピーカーケーブルの焦点が合うと、生演奏をすぐ側で聞いているかのような錯覚に陥ることさえあります。実際に使ってみた時の私の印象です。これは記録されている音(CDなど)に近いという意味です。記録されているのは生の音です。つまりは生の音に限りなく近いということです。

ベルデンのケーブルを使ってみたら、音が細身に感じたというレビューがありました。
型番に最適な長さ以上のケーブルを使うと、高音がシャープになり過ぎてきつさを感じることがあり、それと同時に低音も物足りなくなるそうです。それが細身に感じるというわけです。

また、音がスッキリし過ぎて物足りないというレビューもありました。
その方は、余程モヤモヤとした篭った音を長い間聞いていたのでしょう。そして、それが良い音だと信じていたのだと思います。
音がスッキリしたと感じるのは、山の頂で、雲が晴れて遠くまで見渡せるようになったのと似て、音の篭りが一掃されたからです。音場がクリアになります。しばらく聞いてみて下さい。今まで聞こえなかった音が聞こえてくるはずです。情報量が一気に増えるのです。このCDにはこんな音が記録されていたのか!とビックリすると思います。ストレス無く音楽が聞こえてくるはずです。

いつ頃から始まった風潮なのか、オーディオメーカーが作るのは大蛇のようなケーブルばかりですが、それらに比べるとプロ用スピーカーケーブルは遥かに細いものです。太過ぎるケーブルでは、不透明なフィルター越しに見ると映像が霞んで見えるのと同じように、音が篭ってしまいます。まともな音を出すには、寧ろ細くないとダメです。凝った線材を使ったものや凝ったメッキを施したものも、色付けが酷くなったり、余計な響きが乗ったり、締りの無いブヨブヨに膨らんだ音になります。私が過去に使った太いケーブルは、確かにそのような音でした。こういう音は聞いていて心地良い音と言えるでしょうか?

逆に最適な長さよりも短めのものを使ったらどうなるか?
実際にそういう条件で聞いたことが無いので定かなことは申し上げられませんが、最も太い8477でも必要以上に太いわけではないので、大きな支障は無いと思われます。とは言え、長さに対する適切な太さのものを使うのが無難です。

生の音とはどのようなものでしょうか?

例えば、マイクを通すことをしないクラシック音楽の演奏会を思い浮かべてみて下さい。生演奏というのは、非常に見通しが良いと表現できるようなスッキリした音だと言えないでしょうか。スピーカーから出てくる音とは明らかに違うはずです。演奏会では、ステージと客席の間に遮るものはないので、音がダイレクトに耳に届くはずです。勿論ホール壁面の反射も影響しますが、色付けやモヤモヤしたものは感じないと思います。高音はシャープですがきつさは感じません。低音も引き締まっていますが、十分に厚みがあります。細身だと感じたり、物足りなく感じることもないと思います。それが生の音です。

ところが、録音したものを再生して聞こうとすると、私たちの耳に届くまでには沢山の遮るものが立ちはだかります。それは、録音の段階では録音機材であり、再生の段階では再生機材ということになります。マイクロフォンを通して音を電気信号に変換した瞬間から生の音ではなくなります。そしていくつのもフィルター(機器やケーブル)を通過した末に私たちの耳に届くわけです。いくつのもフィルターを通過する毎に情報量が減っていき、下手をすると生の音とは程遠いものを聞かされることになります。寧ろそのようなケースの方が多いのではないでしょうか?

オーディオの歴史というのは、生の音を如何に忠実に記録するか、それを如何にそれらしく再現するかを追求したものと言えるでしょう。試行錯誤の繰り返しの歴史であるとも言えます。昔に比べて、最近のオーディオメーカーは利益を追及することのみに終始しているような気がします。勿論利益を追求しないと会社が立ち行かなくなるのですが、「それらしく再現する」というオーディオ本来の目的を未だに本気で追求しているかとなると、多いに疑問を感じます。

何時でも何処でもイヤホンさえあれば簡単に音楽を聞くことができる、お手軽な携帯音楽プレーヤーがもてはやされるようになりました。部屋でじっくりスピーカーと向き合うという、オーディオ本来の姿は衰退してきたように感じます。何時でも何処でも音楽を聞けば良いというものではありません。どれほど高性能なイヤホンやヘッドホンであったとしても、「それらしい」音を聞くのは無理であると断言します。イヤホンやヘッドホンではすぐに限界に突き当たります。日本のメーカーは、利益の薄い本格オーディオから次々に撤退しました。そして手軽さや利益追求のみに眼を向け続けた結果・・・今や値段が高いだけの安易な製品が何と多いことか。

ベルデンのスピーカーケーブルは安いですが、侮ってはなりません。金額など全く関係ありません。何万円もするケーブルが必ずしも良い音がするわけではないのです。要は電線なのですから、このくらいが適正価格だと思います。目の玉飛び出るような高額な機材は不要ですが、だからと言って単に激安なだけの機材でいいかというと、それも問題です。本気で良い音を聞こうと思えば、やはりそれなりの機材が必要です。オーディオというのはある程度お金のかかる趣味なのです。

オーディオの目指すべきものとは何か、良い音とは何かを、改めて考えてみる必要があると思います。

ケーブル類を換えることで音の違いを楽しむ、などという変な趣味からはいい加減卒業するべきです。そもそもケーブルを換えると音が変わるということ自体がおかしい・・・ケーブルの役割を考えたら行き着くところは一つに決まっているはずなのです。ケーブルを作る際のコンセプトがオーディオメーカーによってまちまちで統一されていないのが大きな問題です。ケーブルに個性など持たせるから話がややこしくなります。

生の音を基準にしてオーディオを考える必要があります。
生の楽器(エレキであっても)の音や、生の歌声を頭の中にインプットして、その上でオーディオ・システムを組むべきではないでしょうか。

プロ用スピーカーケーブルは、音源の音を色付け無くそのままスピーカーに転送します。録音の良し悪しや再生装置の粗まで曝け出してしまう可能性さえありますので、覚悟して使う必要があります。

プロ用スピーカーケーブルを使って何も感じないとしたら、使い方を間違えているか、再生装置がショボい(金額の問題ではありません。高額でもショボいものはショボい)か、聞いている本人が生の音をわかっていないか、酷い音を聞き続けて耳が麻痺しているかのいずれかだと思います。

プロ用スピーカーケーブルは、オーディオに関する知識の浅い方が興味本位で使っても、その実力を発揮させることはできません。宝の持ち腐れになるだけです。

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